1995年に大阪府高石市でセアカゴケグモが発見された際の報道で、世間はちょっとしたパニック状態に陥りました。「超猛毒で、咬まれたら瞬殺」と誤解した人もあったようです。
その後、大阪府による「ヒトは咬まれても死ぬことはない」と発表があり、今度は「毒グモなんか怖くない」という認識に変わりました。「心配して損した。大袈裟なデマを流した責任者、出てこい」という心境だったのでしょう。
どちらも不正確です。私としては、後者の楽観論の方に問題が多いと思っているのですが、それについては別の機会に述べるとして、今回はなぜ当初は人々が過大な恐怖を抱いたのかを考えてみましょう。
無論、「人が死ぬこともある毒」と聞けば、穏やかではおられないのが人情です。しかし、過剰反応の原因の一つに、フグ毒との混同もあったのではないでしょうか?
日本人にとって、フグ毒は最もお馴染みの自然毒ですから、反応が顕著なのは当然です。「フグ毒といえば、青酸カリの千倍近い強さだ。しばしば犯罪に使われる青酸カリ(シアン化カリウム)は時に投与後数分でヒトを死に至らしめる。フグ毒ならば秒殺ではないか」と心配するのも当然です。
ただし、考えてみれば、フグの中毒でヒトが数秒で死んだという話は聞いていません。動植物に含まれる毒素と工業的に精製されたものには濃度に大きな差があります。表面的な比較は禁物です。
ところで、ゴケグモ毒は「αラトロトキシン」、フグ毒は「テトロドトキシン」で別物です。どちらの名称もそれそれの動物の学名に由来します。「トキシン」が共通するので紛らわしいですが、これは毒素を意味する接尾辞です。
さて、ゴケグモ毒のLD5(半数致死量)は0.59、フグ毒は0.01です。LD50は数値が小さいほど、毒性が強いので、ゴケグモ毒はフグ毒にはるかに及びません。ちなみに、シアン化カリウムのLD50値は3~7ということです。(未完)
これまでも、今後も、私(uroctea)
の文章には、具体的な数値や出典を省略する場合がしばしばあります。これは、ただでさえ長ったらしい私の文章がさらに煩雑になるのを避けるためです。
時期を見て、研究誌上で発表する際には、それを補うつもりでおりますので、どうか御了承ください。その間にコメントを入れて、突っ込んでくださると、拙文を鍛える効果があるので、大歓迎です。